今日も、元気な彼女の声が郷(さと)に響く。
ツユチカは、その声を微笑ましく聞いていた。
この郷には、さまざまな理由で、生まれ育った集落を出なければならなかった者たちがやってくる。
姿形が違うというだけで、忌み嫌われた者。
不思議な力を持って生まれた者。
育てられないからと捨てられた赤子。
そのため、ここは他から守るように、結界が張られている。
山へ入った人間が、迷い込まないように。
恐怖を抱いて襲ってくる人間が、入って来られないように。
その結界を守り続けているのが、ツユチカとカルラという一組の男女だった。
地につかんばかりに長く、動くにつれて金の粉が舞うような黄金の髪を持つ、畏怖さえ覚える整った顔立ちのツユチカ。
長さこそ背中に届くくらいだが、輝くような黄金の髪を持ち、美しくも愛らしい顔立ちをしたカルラ。
神々しいまでの2人の姿だったが、一部の者以外には、ごく普通の人間として映っている。髪も茶色にしか見えない。
カヤが新しく連れてきた娘は、その本来の姿が見えていた。
ツユチカが彼女に興味を持ったのは、それだけが理由ではない。
カヤは、彼女を自分の家に住まわせた。
それは、たくさんの者たちをこの郷に連れてきたカヤが、初めてしたことだ。カヤに言い寄る女たちがずっと、望んできたことだった。
「大っ嫌いっ」
今日も、彼女が叫んでいる。
その様子をみつめながら、ツユチカは楽しげに微笑むのだった。