女たちに混じって、チィは川辺で休んでいた。
川の水は冷たく、洗濯を終えると指がかじかんでしまう。陽差しでほのかに温まった石で、手を温めていたのだ。
隣に、男が腰を下ろしたのは知っていた。
それが、誰なのかも。
でも、チィは、わざと知らん顔をしていた。
その男を、子どもの頃は、カヤのおじさんと呼んでいた。色々なものを背負って集落へやってくるこの男は、子どもにとっては良い遊び相手だった。
あの頃から、カヤは少しも年を取っていないように見える。
いつまでも青年のように若々しく、見目も良い。背が高くて、人当たりもいいから、人気は絶大だ。集落の女たちで、カヤと関係のない女はいないとまで言われている。もちろんチィにとっては、今でも『カヤのおじさん』でしかない。
それなのに、最近やたらと視界に入ってくるこの男が、うっとうしくて仕方がなかった。
女たちがこちらを見てひそひそと話している。
ついに我慢できなくなって、チィは立ち上がった。
その手を、いきなりつかまれる。
「行こうか」
チィは、相手の顔を睨み付けると、思い切り手を振りほどいた。
「どういうつもりっ」
そんな反応を面白がるように、カヤは笑顔で答える。
「どういうって…、他にある?」
チィは、一瞬言葉に詰まった。
が、すぐに洗濯物を抱えると、猛然とその場を立ち去ったのだった。
信じられない。
チィは走りながら、この言葉を繰り返す。
「どうしたんだよ」
もの凄い勢いで集落へ入っていこうとしたチィの腕を、シュウが捕まえる。呆れたようなその表情に、チィは思わず感情をぶつけていた。
「なんなの、あのカヤって男は。昼間っから、女誘うだなんて、信じられないっ」
「そういう男じゃん、あいつは」
「だって、だって、相手は私だよ」
さっとシュウの顔色が変わるのを見て、さすがにチィもしまったと気付く。
「だ、大丈夫。ちゃんと断ったから」
そうか、と答えただけで、シュウは山へ向かって歩いていった。
その表情が曇っていたのを、深く考えることもせず、翳りのある男って素敵だなぁと、チィは呑気に思うのだった。