源氏18歳、紫の上10歳(藤壺23歳)
−生ひ立たむありかも知らぬ若草を おくらす露ぞ消えむ空なき−(尼君)
−初草の生ひ行く末も知らぬまに いかでか露の消えむとすらん−(女房)
「若紫」の巻
−初草の若葉の上を見つるより 旅寝の袖も露ぞ乾かぬ−(光源氏)
−枕結ふ今宵ばかりの露けさを 深山の苔に比べざらなん−
干難うがたう侍る物を (尼君)
「若紫」の巻
−夕まぐれほのかに花の色を見て 今朝はかすみの立ちぞ煩ふ−(光源氏)
−まことにや花のあたりは立ち憂きと 霞むる空の気色をも見む−(尼君)
「若紫」の巻
−おもかげは身をも離れず山桜 心の限りとめて来しかど−
夜の間の風も、後ろめたく(光源氏)
−嵐吹く 尾上の桜散らぬまを 心とめける程のはかなさ−(尼君)
「若紫」の巻
源氏22歳、紫の上14歳
−はかりなき千尋の底のみるぶさの 生ひゆく末は我のみぞ見ん−(光源氏)
−千尋ともいかでか知らん定めなく 満ち干る潮ののどけからぬに−(紫の上)
「葵」の巻
−あやなくも隔てけるかな夜を重ね さすがになれし中の衣を−(光源氏)
「葵」の巻
源氏24歳、紫の上16歳
−浅茅生の露の宿りに君をおきて 四方の嵐ぞしづ心なき−(光源氏)
−風吹けばまづぞ乱るゝ色変はる 浅茅が露にかゝるさゝがに−(紫の上)
「賢木」の巻
源氏26歳、紫の上18歳
−身はかくてさすらへぬとも君があたり さらぬ鏡のかげは離れじ−(光源氏)
−別れても影だにとまる物ならば 鏡を見ても慰めてまし−(紫の上)
「須磨」の巻
−生ける世の別れを知らで契りつゝ 命を人に限りけるかな−(光源氏)
−惜しからぬ命にかへて目の前の 別れをしばしとゞめてしがな−(紫の上)
「須磨」の巻
−浦人のしほくむ袖に比べ見よ 波路隔つる夜の衣を−(紫の上消息)
「須磨」の巻
源氏27歳、紫の上19歳
−はるかにも思ひやるかな知らざりし 浦より遠(をち)に浦づたひして−(光源氏消息)
「明石」の巻
−うらなくも思ひけるかな契りしを 松より浪は越えじ物とぞ−(紫の上消息)
「明石」の巻