源氏26〜27歳
−ひきつれて葵かざししそのかみを 思へばつらし賀茂の瑞垣−(右近丞)
−憂き世をば今を別るゝとゞまらむ 名をば糺の神にまかせて−(光源氏)
「須磨」の巻
−亡き影やいかゞ見るらむよそへつゝ 眺むる月も雲がくれぬる−(光源氏)
「須磨」の巻
−いつか又春の都の花を見む 時うしなへる山がつにして−(藤壺の子・春宮へ光源氏消息)
−咲きてとく散るは憂けれど行く春は 花の都をたちかへり見よ−
時しあれば(王命婦)
「須磨」の巻
−唐国に名を残しける人よりも 行くへ知られぬ家居をやせむ−(光源氏)
−故郷を峰の霞は隔つれど 眺むる空は同じ雲井か−(光源氏)
「須磨」の巻
−恋ひわびて泣く音にまがふ浦浪は 思ふかたより風や吹くらむ−(光源氏)
「須磨」の巻
−初雁は恋しき人のつらなれや 旅の空飛ぶ声の悲しき−(光源氏)
−かきつらね昔のことぞ思ほゆる 雁はその世の友ならねども−(良清)
−心から常世を捨てて鳴く雁を 雲のよそにも思ひけるかな−(民部大輔=惟光)
−常世いでて旅の空なる雁がねも 列(つら)におくれぬほどぞ慰む(右近丞)
「須磨」の巻
−見る程ぞしばし慰むめぐりあはむ 月の都ははるかなれども−(光源氏)
−憂しとのみひとへに物は思ほえで 左右(ひだりみぎ)にもぬるゝ袖かな−(光源氏)
「須磨」の巻
−琴の音にひきとめらるゝ綱手縄 たゆたふ心君知るらめや−
すきずきしさも、人な咎めそ(筑紫の五節の君)
−心ありてひきての綱のたゆたはば うち過ぎましや須磨の浦浪−(光源氏)
「須磨」の巻
−山がつの庵にたけるしばしばも 言問ひ(こととひ)こなん恋ふる里人−(光源氏)
「須磨」の巻
−いづかたの雲路に我も惑ひなん 月の見るらむこともはづかし−(光源氏)
−友千鳥もろごゑに鳴くあかつきは ひとり寝覚の床もたのもし−(光源氏)
「須磨」の巻
−いつとなく大宮人の恋しきに 桜かざしし今日も来にけり−(光源氏)
「須磨」の巻
−故郷をいづれの春か行きて見む うらやましきはかへる雁がね−(光源氏)
−あかなくにかりの常世を立ちわかれ 花のみやこに道や惑はむ−(宰相=頭中将)
「須磨」の巻
−雲近く飛びかふ鶴(たづ)も空に見よ 我は春日(はるひ)のくもりなき身ぞ−(光源氏)
−たづかなき雲井にひとりねをぞ泣く 翼並べし友を恋ひつゝ−(宰相=頭中将)
「須磨」の巻
−知らざりし大海(おほうみ)の原に流れきて ひとかたにやは物は悲しき−(光源氏)
−八百よろづ神もあはれと思ふらむ 犯せる罪のそれとなければ−(光源氏)
「須磨」の巻
−海にます神の助けにかゝらずば 潮のやほあひにさすらへなまし−(光源氏)
「明石」の巻
−あはと見る淡路の島のあはれさへ 残るくまなく澄める夜の月−(光源氏)
「明石」の巻
−ひとり寝は君も知りぬやつれづれと 思ひあかしの浦さびしさを−(明石入道)
−旅衣うら悲しさにあかしわび 草の枕は夢も結ばず−(光源氏)
「明石」の巻
−をちこちも知らぬ雲井にながめわび かすめし宿の木末(こずゑ)訪ふ(とふ)−
思ふには(光源氏)
思ふには忍ぶることぞ負けにける 色には出でじと思ひしものを
(古今・恋一、読み人知らず)
「明石」の巻
−眺むらむ同じ雲井を眺むるは 思ひも同じ思ひなるらん−(明石入道)
−いぶせくも心に物を悩むかな やよや如何にと問ふ人もなみ−
言ひがたみ(光源氏)
恋しともまだ見ぬ人の言いがたみ 心に物の嘆かしきかな
(不明)
−秋の夜の月毛の駒よ我が恋ふる 雲井に駆けれ時の間も身む−
(明石の君を訪ねる途中、紫の上を想って・光源氏)
「明石」の巻
−世を海にこゝら しほじむ身となりて 猶この岸をえこそ離れね−(明石入道)
−みやこ出でし春の嘆きに劣らめや 年経(ふ)る浦を別れぬる秋−(光源氏)
「明石」の巻
−わたつ海に沈みうらぶれ蛭の子の 足立たざりし年は経にけり−(光源氏)
−宮柱めぐりあひける時しあれば 別れし春の恨み残すな−(帝=光の異母兄)
「明石」の巻
−嘆きつゝあかしの浦に朝霧の たつやと人を思ひやるかな−(光源氏)
−須磨の浦に心をよせし舟人の やがて朽たせる袖を見せばや−(筑紫の五節の君)
「須磨」の巻