駅から大学までは、桜並木が続いている。
その桜は満開を過ぎて、早くも散り始めていた。
掲示板の前に立つ女子学生の、肩先でくるんとはねた髪に花びらをみつけて、谷山圭太は、そっと手を伸ばした。
掲示に見入っていた彼女が、その気配を感じ取って、訝しげに振り返る。
まともに視線が合ってしまった圭太は慌てたが、相手からの責めるような言葉はなかった。
戸惑う彼女をみつめて、圭太は弁解する。
「髪に、桜の花びらがついていたから…」
彼女は自分の髪先を見遣り、花びらをみつけて、口元に笑みを浮かべた。
そんな彼女の、うっすらと化粧をした笑顔に、圭太は見惚れた。
「ありがとう…」
彼女はそう言うと、細い指で花びらをそっとつまんだ。手の平に乗せて花びらを眺め、ふうっと息をかける。
ひらり、ひらりと落ちていく花びらを、2人は息を凝らしてみつめ続けた。
ふわり、とアスファルトに着地する。それは、白い花びらが描く模様の一部となった。
息をついた圭太が顔を上げる。
彼女と目が合い、どちらからともなく、笑顔になった。
「俺、史学科1年の、谷山圭太」
口をついて出た自己紹介に、心の中では呆気にとられながらも、圭太は平静を装った。
「…日本文学科1年の、新川真由です」
ほのかに顔を赤らめて、彼女は答えた。
返ってくる筈がないと思っていた言葉を聞いて、圭太は思いきって言ってみた。
「お昼まだだったら、学食へ行きませんか?」
目を見張った真由は、圭太をみつめると、ゆっくりと頷いた。
ぎこちなく、並んで歩き出した2人に、桜の花びらが舞い落ちる。はらり、はらり、と。