もう1つの「窓の向こう側」

「なぁ、どう思う? 和樹の奴」
 コーヒーカップを置くと、何が?という顔をして、永篠規一は友人の篠山圭介をじっとみつめた。
「だからさぁ、今朝の女子コーセーのことだって。抱きかかえたのは咄嗟の出来事だったとしても、大丈夫か、だぞ? お前は王子様かっつうの」
 まだその話を続けるのか、と心の中でため息をつきつつ、規一は答える。
「お前だって、女の腰抱いてたろ。あの時」
 口を『あ』の字に開けたまま、圭介は真っ赤になった。
「あ、あれはだなぁ。向こうが倒れてきたから、抱きとめただけで…」
「だったら、和樹も同じだろうが」
 ちぇ、とつぶやくと、圭介は携帯を開く。
 その姿を、規一はにやにやしながらみつめていた。

 数日後、部活が休みになったから一緒に帰ろうと、圭介が誘ってきた。
 何か話したそうな様子に、規一は図書館へ行くのは止めて付き合うことにする。
 駅へ向かう道々、圭介が話したのは、和樹と彼女の再会についてだった。
 よく和樹が話したな、と思いながら規一はその話に耳を傾ける。
「付き合うかな、あの二人」
「…コスモス畑か。あの家のことかな」
「知ってるのか?!」
 勢い込んで尋ねる圭介に苦笑しながら、規一が答える。
「家からは少し離れているんだが、秋になると綺麗だって母さんが言ってた」
「なぁ、見に行かねぇ?」
 瞳をきらきらさせて答えを促す圭介に、規一は不承不承頷いたのだった。

「へぇ。綺麗だなぁ」
 規一が母から聞いていた場所はうろ覚えだったが、この時期は有名なようで、通りがかりの人に尋ねるとすぐ、その家の場所はわかった。
「あ」
 その声に振り向くと、2人の女子高校生が立っていた。
「あの、山木さんのお友達、ですよね?」
 和樹と同じ名の和希の方が、口を開く。
 規一と圭介が頷くと、きゃぁ、と黄色い声があがった。
「今日、山木さんは?」
「あいつは、部活」
 あからさまに残念そうな顔をした和希に、男2人は顔を見交わす。
「ね、お願いがあるんですけど。山木さんのメアド、教えてもらえない?」
 邪気のない笑顔で、和希が尋ねる。
 規一がむっとした顔で口を開きかけたとき、隣に立つ彼女がこう言った。
「やめなさいよ、和希。本人に了解なく教えられないって」
「そっか。そうよね。ごめんなさい。だったら、え〜と、あなた」
 指を差されて、圭介が俺? と尋ねる。
「そう。あなたのメアド、紗和に教えてあげて」

 コスモスの季節は終わり、夜の街はイルミネーションが輝くようになった。
 和樹は、和希と付き合うことになり、そして、圭介は今、紗和と付き合っている。
 あの朝、圭介の胸に倒れ込んだのは、紗和だった。
 口の重い和樹が、圭介に和希との話をしたのも、和希と紗和が友人だと知っていたからだ。
(なんだかな。2人ともさっさと彼女作りやがって。今年のクリスマスは、俺1人かよ…)
 毎年、クリスマスの夜は家族で過ごす。恒例の食卓を思い出して、規一はそっと微笑んだ。
(まぁ、いいか。母さんのケーキは絶品だからな)
【完】


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