「木枯らしの中で」

 真冬の屋外にあって、君は暖かかった。
 そんな君を抱きしめたい、そう、俺は思ったんだ。

 そんな衝動に助けられて、手を伸ばす。
 その途端に振り向いた、君。
 なんで、そんなに驚くかな。
 宙に浮いたままの、俺の手。
 戻すタイミング、失ったじゃないか。
「何?」
 小首を傾げて、君は俺の手を握った。
 握手じゃないんだって。
 なけなしの勇気が砕けそうになったけれど、君の温もりは、まだ手の中にある。
 俺は、その手を引き寄せた。

 そうして、気付いたんだ。
 俺の腕の中で、頼りなげに固まった君。
 そうか。そうだったんだね。
 俺は、思いのありたけを込めて、強く抱きしめた。

 木枯らしが吹く中、やっぱり君は暖かい。
「好きだよ…」
 ごめん、不安にさせて。
 俺が臆病だったから、ずっと言葉にできなかった。
 君は、それでも側にいてくれた。

 おずおずと、君の手が背中に回る。
 照れたように笑う君に、俺は満面に笑みを浮かべた。

 もう、離さない。
 この温もりは、俺だけのもの──。
【完】


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