『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』その1

これは、藤原鎌足による蘇我入鹿暗殺のお話です。
入鹿はその名前から、鹿の生き血を飲んだ母から生まれた子という設定になっています。 これは、史実とは全く関係ありません。
とても長い演目で、全部をやろうとすると、1日がかりでしょうね。
だいたいは、久我之助・雛鳥の話か、お三輪・求馬・橘姫の話、どちらかを中心とした上演となります。

このお話は、江戸時代に書かれたものですが、時代は奈良ですから、昔の話であるということがよくわかるように、 平安時代の格好をした侍女たちが登場します。他の人たちは、江戸時代の格好のままです。
現代に生きる私たちからすると、奈良時代の話なのにどうして平安時代の衣装なの?  他の人はどうして江戸時代の服装なの? と思われるでしょうが、 時代考証などというものは、当時浄瑠璃を楽しむ人たちには関係なかったのです。
深く考える必要はありません。 文楽は庶民の娯楽、世話物に至っては現代でもよくある、大きな事件のドラマ化みたいなものなのですから。

まずは、久我之助・雛鳥を中心とした前半のお話を。
久我之助と雛鳥は、ロミオとジュリエットなんです。
親同士が、領地争いで不仲なのですが、互いのことを知らぬまま、2人は恋に落ちます。
さて、本編です。 帝に取って変わろうとする入鹿は、三種の神器を盗み出し、久我之助の父・大判事を味方につけます。
ですが、久我之助は帝の付き人。皇子を生んだ鎌足の娘・采女の行方を捜しています。 采女は実は生きていて、反逆者とされた父・鎌足の行方を捜すために、姿を消したのでした。
そうとは知らず、采女は入水したと聞いた帝は、彼女を弔うために猿沢池にやってきます。 そこへ入鹿反逆の報が届くのですが、鎌足の息子・淡海の機転で難を逃れるのでした。
入鹿は、采女に横恋慕しており、姿を消したのは久我之助が手助けしたからだと、大判事を責めます。 また、久我之助と恋仲にある雛鳥も同罪だと、雛鳥の父・定高をも責め立てます。
2人の父親が、知らぬことだと申し立てると、ならば久我之助を自分に仕えさせ、雛鳥は入内させよと、 入鹿は難題を突きつけるのでした。
そして、一番有名な「妹山背山の段」となります。 中央の吉野川を挟んで、大判事と定高の屋敷があるという、左右対照の舞台となっています。
川を隔てて、双方の親の不仲を嘆いていた久我之助と雛鳥。そこへ、父親たちが現れ、入鹿の命を告げるのです。
従うことなどできないと、久我之助は采女の行方を父に話して切腹、雛鳥は、愛する久我之助に操を立てて自害します。
2人の親は嘆き悲しみ、雛道具と共に送られた雛鳥の首と、断末魔の久我之助の祝言が行われるのでした。

次は、お三輪・求馬(淡海)・橘姫のお話です。


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